地球をきれいにする技術 光触媒のさらなる応用をめざして。東京理科大学 学長 藤嶋 昭

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一見、何の変哲もないきめ細かな白い粉ですが、これが、私の研究に大きく関わってくる「酸化チタン(TiO2)」です。今日では光触媒研究の中心として、世界中で幅広く応用され、進化をもたらし続けています。
私が発見した光触媒は、“酸化チタンに光を当てると、水を酸素と水素に分解する”という反応で、現在はこの応用研究が盛んに行われています。

光触媒の発見と応用。

光触媒の2つの原理―。1つ目は、太陽光は酸化チタンと組み合わせることにより水を酸化する、つまり水を酸素と水素に分解するということ。そして2つ目は、酸化チタンは光照射されると水との親和性、つまり超親水性という特性をもつということです。

酸化チタンから酸素が出てくるのを見たとき、非常に感動しました。本質的に光合成をまねることができたということですからね。植物の葉緑素のように、太陽の力を使って水を分解し、酸素を作ることが可能になったのです。

この研究を1972年、「ネイチャー」誌に発表したところ、オイルショックで石油に代わる資源として水素が注目され、一躍脚光を浴びることとなりました。

これまで酸化チタンは、空気と水の浄化技術、セルフクリーニング、曇り止め、防汚への応用に用いられ、その多くが製品化されてきました。もっとも普及している応用例が、セルフクリーニング作用をもつ建物です。タイルなどの表面に酸化チタンのコーティングを施すと、酸化チタンの光触媒としての特性が作用し、汚れがつきにくくなります。太陽光が汚れ物質を分解するとともに、酸化チタンの超親水性により水になじみやすくなり表面をきれいに保つのです。
酸化チタンは水を分解し、バクテリアを殺し、たばこやペットなどの臭いを取り除いて消臭することができます。そのため、空気清浄機や曇り止めミラー、タイルなど多様な用途で使われています。

最先端の光触媒研究拠点へ。

研究をさらに発展・向上させるための拠点として、2013年4月に、東京理科大学光触媒国際研究センター(PIRC)を開設しました。センターは3つのグループで構成されています。「セルフクリーニンググループ」は、窓や壁などの表面を常にきれいにする技術を研究し、「人工光合成グループ」は、太陽光を使用しての実験、そして「環境浄化グループ」は複合光触媒で環境を浄化する方法を研究しています。

光触媒は世界中で普及が進みつつあり、大きな成長の余地があります。特に、酸化チタンの研究では日本が世界をリードしており、今後もさまざまな応用が生まれると確信しています。現在、インドや中国のポスドク・特別研究員が学生と共に研究を進め、まさに世界の光触媒研究の拠点となっています。

新たな応用の可能性が拡がる。

私が現在、高い期待を寄せているのが医療分野への応用です。酸化チタンはバクテリアを殺すだけでなく、ウイルスやがん細胞を殺すことが分かっています。

さらに酸化チタンを屋内で使用することができれば、生活の質を大きく向上させることができます。しかし、これには難しい課題があります。 酸化チタンの応用で遅れているのは壁紙など、屋内への応用です。酸化チタンがはたらくためには紫外線が必要だからです。そこで、可視光に対してより感度の高い光触媒技術を開発すべく研究を行っています。

また、エネルギーと水耕農業分野にも研究を拡大させています。水を分解し水素を生成する、効率がよく安価な方法を発見すれば、世界のエネルギー分野に大きな影響をもたらすことができます。また、水耕農業の研究から、酸化チタンを使用して水中の有機物を分解すると、植物の生長が促されることも分かっています。

光触媒はさまざまな分野でとても大きな可能性を持つ研究ですので、このように応用範囲を広げていき、光触媒技術を通して人々のより良い生活を実現させていくことができれば、研究者としてこれ以上嬉しいことはありません。

東京理科大学 学長藤嶋 昭Akira Fujishima

藤嶋学長は酸化チタン(TiO2)の光触媒性および超親水性の発見と研究に大きく貢献したことで知られ、数多くの賞および勲章を受けている。

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