世界トップレベルの火災科学研究 火災リスク・被害を減らす。 総合研究機構 研究センター部火災科学研究センター 准教授 松山 賢

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現在、日本国内では年間5万件近い火災が発生しており、近年では減少傾向にありますが、それでも1500人以上が命を落としています。住宅火災での死者のうち、65歳以上の高齢者が70%を占めており、さらに今後も上昇傾向が続くと予想されます。しかし、多くの人は身の危険に遭遇しない限り、まさに“対岸の火事”と考え、火災リスク・安全を意識することは無いといっても過言ではありません。
こうした背景のもと、安全・安心な社会を築くため、建物やまちづくりをはじめとし、エネルギーや輸送といったさまざまな産業分野を対象に、東京理科大学の火災科学研究センターでは、いかに火災を発生させないか、また火災が発生した際にもその被害をいかに最小限にとどめるかといったことを主眼に研究を行っています。

世界トップレベルの実験施設。

東京理科大学は、1981年に総合研究所火災科学研究部門(現在、総合研究機構火災科学研究センター)を設立しました。以来、常に火災科学の最前線で、火災による被害と潜在リスクを軽減するための研究を続け、多くの社会貢献に寄与する結果を生み出しています。研究活動のみならず、火災科学研究センターを母体とした教育機関である大学院・国際火災科学研究科が2011年に新設され、8人の教員スタッフで、火災物理、火災リスク分析、燃焼理論・工学、消火理論、煙流動、人間行動、構造耐火、消防防災など多岐にわたる分野で研究・教育活動を行っています。また、海外の大学や国立研究機関などと協力し、世界中で火災安全科学研究、教育などの活動も積極的に行っています。

現在、私たちの研究室は世界トップレベルの施設・設備を誇る「火災科学研究センター実験棟」を拠点に、火災安全・安心に資する実験的研究を行っています。日本国内で、これほどスケールの大きい実大規模に近いレベルで火災実験が行える施設はわずかしかないでしょう。火災安全科学研究分野において、東京理科大学は、世界でも最先端のレベルにあると思います。 この実験棟には、面積約1000平方メートル(40×26メートル)、高さ18メートルの本格的な大規火災実験室があり、ここでは、例えば実際の家具を用いた模擬オフィス空間による実大燃焼・煙流動実験から、耐火炉による構造耐火性実験、消火性能確認実験まで、あらゆる火災安全科学分野に対応した実験が可能です。
実験施設・装置も非常に大きなものが多くありますが、これらを実際に使用した実験を見るとそのダイナミックさに圧倒されることでしょう。また、実際の燃焼実験では、火炎の大きさや放射熱の強さを感じることで、火災の驚異や恐怖を認識することでしょう。

火災時の人命救助・消防活動支援のために。

現在、私の研究の中心は“建物の火災安全設計や消防活動支援に関わるツール開発”です。
多くの大規模建築物に設置されているスプリンクラー設備は、その消火性能は非常に高いことは周知の事実であり、また代表的な消火設備の一つであります。併せて、消火性能以外にも水滴による周囲への放射熱低減や冷却効果等、多くの長所を備え持っています。一方で、初期火災時では、安定した煙層を掻き乱し、在館者の避難に支障を与える可能性が潜在しています。そこで、近年、スプリンクラーによる煙層の乱れを実験により定量化に成功し、また排煙設備との関係も実験的に確認し、現在では、そのスプリンクラーのさまざまな効果が反映された数値計算モデルによってシミュレーションできるようになったところです。
この数値シミュレーションモデルは、今後、建物の火災安全設計をはじめ、スプリンクラーシステムの開発等において、性能と安全性の改善につながると期待されています。また現在、産学連携で、近年注目されている「テラヘルツ電磁波」を利用して、火災安全技術への応用に向けた研究開発を進めているところです。
「テラヘルツ電磁波」は、光波と電波の間に位置していることから、光の空間分解能とミリ波と同等の物質透過能力を併せ持っています。また、X 線などに比べて生体に優しいという特徴もあります。さらには、ガス分子の回転/振動運動と共鳴するため、危険ガスそれぞれに固有の吸収線があり、そのパターンによってガスの種類を特定することができると考えられます。すなわち、従来の赤外線によるガスセンシング技術と比較すると、テラヘルツ電磁波は壁や煙等障害物を透過し、毒性ガスを高精度にかつ遠隔からセンシングできるという特性を持つことから、将来的には、火災時の消防活動支援が可能なリモートガスセンシングシステム等として期待できると考えています。
これらにより、火災時の建物内部の状況、具体的には、一酸化炭素やシアン化水素などの有毒ガスの種類・濃度に関する情報が遠隔から即時に提供されることで、消防隊員の進入可能か否かの判断が可能となり、二次災害リスクを大幅に軽減できると考えています。

併せて、テラヘルツ電磁波のイメージング技術への応用についても研究・開発を進めています。具体的には、テラヘルツ電磁波を用いた照明装置の開発を実施しており、アクティブイメージングシステムの構築に取り組んでいます。このプロジェクトは、JST(科学技術振興機構)の先端計測開発プログラムから支援を受けており、現在、2年経ったところです。
火災時には大量の煙が発生し、その煙が室内や廊下に充満すると、視認性が非常に悪くなり、目の前も見えないことがあります。これは、十分な装備を身に付け、かつ訓練をつんだ消防隊員であっても、救助・検索活動や消火活動をする上で、大きな障壁となります。テラヘルツ電磁波を用いた照明装置を使うことで、(暗い中でフラッシュを使って撮影するのと同様に)煙中での高い透過性能が有効に機能し、このアクティブイメージングシステムによって煙や炎の先を容易に確認できるようになるかも知れません。

このようなシステムには大きな将来性があると考えています。煙に汚染された室内で何が起きているのか、逃げ遅れ者がいるのかが分かれば、火災時の建物内での消防隊による救助・検索活動や消火活動の強力なツールになります。さらには、建物内の監視カメラと併設することで、日常時でも火災のような災害時でも遠隔による建物内の監視を可能とし、取り残された在館者の検索を迅速に行うこともできるようになるかもしれません。
さらに、今後開発をめざしているのは、システムの小型化、例えば、ゴーグル程度の大きさで消防隊員にウェアラブルなものです。このようなツールがあれば、火災救助活動を劇的に改善することが期待できます。

世界の火災リスク抑制のために。

国際火災科学研究科では、バングラデシュ、ベトナム、中国、韓国などアジア諸国から多くの留学生が学んでいます。アジアでは急激な都市化が進み、超高層や大深度地下という空間が多く開発されるようになってきました。さらに、石油化学製品など工業化や省エネルギー化に伴う新材料の利用により、建築物の潜在的火災リスクが各地で高くなっています。こうした背景からも、アジア地域の教育・研究活動を積極的に行っていくことで、火災科学に関する知識を習得させ、母国の火災安全に貢献できる人材を育成することも一つの大きな役割となっています。
私たちが行っている研究は、日本のみならず、世界における火災安全のレベルを向上させ、火災による被害低減に役立つということなのです。今後も火災科学の躍進的な発展に大いに貢献していきたと思っています。

総合研究機構 研究センター部 火災科学研究センター 准教授松山 賢Ken Matsuyama

東京理科大学理工学研究科建築学専攻で博士号を取得。専門分野は火災・燃焼工学、熱流体、消火理論、計測工学。
2010年、東京理科大学准教授に就任。

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